◎阿部ゆたか
【作品】「死霊のしたたり」前後編『ハロウィン』87年3月号~4月号
(朝日ソノラマ)所収
【内容】HPL『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』を映像化した「ゾンバイオ死霊のしたたり」の日本公開時にホラー漫画誌に掲載(前編掲載誌のみ所有。後編が実際に掲載されたかどうかは未確認)。
◎阿宮美亜
【作品】「井氷鹿の夜」『C-LIVE』3(夢元社)所収
【内容】考古学者垂涎の蔵書を有するとされる吉野の旧家・秋日家に嫁いだ由貴は、姿を見せぬ義母の部屋から夜毎ずるずると這いずるような音を聞く。彼女が友人である大学研究者の助手に託した秋日家文書は、ヘブライ語と同じ22音の古代文字で書かれていた。それを解読した大川教授が辿り着いた<神名>、そして秋日家が代々受け継いできたモノとは──?
クトゥルー神話と神代文字や日猶同祖論など偽史の定番アイテムを絡めた、日本でよく書かれそうでいて余り書かれないアイデアの作品。別の本によると、著者は女性。成人漫画の著書が多いが、その劇画調の作画はかなり高水準で、ストーリーともよく合っている。
◎いしいひさいち
【作品】「玩具修理屋」『COMICAL MYSTERY
TOUR 3 サイコの挨拶』(創元推理文庫)所収
【内容】小林泰三『玩具修理者』のパロディ4コマ。修理を頼む対象の馬鹿馬鹿しさに爆笑必至。世界で最も短い神話作品か?
◎井田辰彦
【作品】『外道の書』(講談社)
【内容】歴史上、何度も焚書されたにも関わらず暗黒の知識を求める者の手により受け継がれてきた『外道の書』。それは人間を本に変えて、12冊を揃えると究極の知識と力を与えられると言われる。兄を本に変えられた妹は、本になり損ねた男ととともに、本を集める小学生を追うが……。
作品中ではクトゥルー神話とそれに関する固有名詞に言及されることは全くないが、日本のホラーに魔道書が登場するようになった背景に、最も大きな影響を与えたのが『ネクロノミコン』と考えられることからすると、魔道書テーマを究極まで突き詰めた作品として特記に値する。
◎唐沢なをき
【作品1】『ホスピタル』全2巻(白泉社)
【内容】「ハーバート西」というトンデモない外科医(笑)が登場。ラストでは怪しげな機械を使って「邪悪な混沌」を召喚しようとする。
【作品2】「諸国怪態物語 段吉の怪」『近未来馬鹿』(青林堂、改訂版は青林工藝舎)所収
【内容】へまむし組に祭られた神像から謎の古文書を見つけた段吉は、それが狗登呂遺跡から発見され、愛倉博士が解読したものの封印した古代文字であることを知る。古文書の呪文を詠唱した段吉は、異形の物へ変貌し暴れ回る……というギャグ漫画。
◎後藤寿庵
【作品】『ALICIA・Y』(茜新社にんじんコミックス)
【内容】ウェイトリー家が、ダニッチ事件の復讐のためアーミティッジ家に誕生させたヨグ・ソトースの申し娘アリシア。魔術により生き永らえてきたルネサンス期の大学者にして大魔術師であるジョン・ディーは、彼女を利用してクトゥルーを目覚めさせ、そしてそれをステップとして究極の智たるヨグ=ソトースと一体化しようとするが……。
旧支配者を単なるモンスターとして描写するのでなく、「神話」として設定を凝った異色作。
◎さいとう邦子
【作品】「理不尽な海」「人間未満」「ハイドラ」『理不尽な海』(ぶんか社ホラーMコミックス)所収
【内容】海で死んだはずの人間が帰ってくる海域。しかし、大怪我をしても死ぬこともない体ゆえ、生還者は人間社会では追われる存在となる。そして、その海には、水死者に自らの細胞を与え、時には己の一部とし、時には不死身の存在に変える怪物<ハイドラ>がいた……。ハイドラは超次元の存在ではなく、作中でもギリシア神話にしか言及されていないが、水死者が怪物の一部となって蠢く様は、クトゥルー神話中のハイドラを連想させる。
◎斎藤岬
【作品】『魔殺ノート 退魔針』(原作・菊地秀行。スコラ刊が1~★巻、ソニー・マガジンズ刊1~10巻=続刊中)
【内容】退魔師集団「夜狩省」の子孫たちが、富豪が召喚してしまった邪神たちと死闘を展開。絵はとぼけた感じながら、作品は緊張感を失わないのはさすが。ただし、登場する神性は菊地氏オリジナルが多い。
◎櫻水樹
【作品】『マジカルブルー』全2巻(原作・朝松健、リイド社恐怖の館コミックス)
【内容】魔術漫画だが、黒魔術結社の幹部が「イア!ヨス=トラゴン」と唱えたり、「地底の暗黒世界クンヤンから来る地獄の雪虫ヒシセン」が登場。
◎しのらさとし
【作品】「深きものども」『コミックマスター』5(ホビージャパン)所収
【内容】80年代に一時某雑誌の読者欄などで流行した「前世で戦士だった仲間を探しています」ネタをクトゥルーと絡めた短編。
◎士郎正宗
【作品】『仙術超攻殻オリオン』(青心社)
【内容】「瑠璃家(ルルイエ)水天」「九尾九頭龍(クトゥルー)すなわちヤマタノオロチ」といった怪しげな設定が登場。
◎高橋葉介
【作品1】「案山子亭」『夢幻紳士 マンガ少年版』(朝日ソノラマ)他所収
【内容】畑もないのに案山子が並ぶ、荒野にポツンと立つ宿屋に泊まった夢幻紳士。主人の部屋は『屍食教典儀』『妖蛆の秘密』『断罪の書』そして『ネクロノミコン』など怪しい本で溢れ、宿帳には投宿の記録はあっても出立のものはない。部屋で怪人に襲われた紳士は、一度はこれを撃退するが、主人が「アザトース」「バイアティス」「クトゥグア」などの名前で呼ばれる案山子たちに術を施しているのを見て、一計を案じる……。
【作品2】「HAUNTED HOUSE」『猫夫人』(朝日ソノラマ)他所収
【内容】HPL「時間からの影」が掲載された『アスタウンディング・ストーリーズ』1936年6月号表紙にそっくりな場面がある。
【作品3】「蜘蛛」『夢幻紳士 怪奇編』2巻(徳間書店)他所収
【内容】昆虫学者が娘に見せた古代蜘蛛アトラク=ナクアのイラスト。この蜘蛛は、若い女に化けるという言い伝えがあるという……。
【作品4】「混沌の島」『怪談 KWAIDAN』(朝日ソノラマ)他所収
【内容】子供ができない体の妻との生活に疲れ孤島を訪れた男は、浜に打ち上げられた、妻の若い頃によく似た少女を助ける。そして、彼は少女に海につながる孤島の地下空洞で、次々と新しい生命を産み出しては喰らう巨大な<生命のプール>を見せ、「おまえはここで産れたのだ」と告げる。
生命のプールは、明らかにアブホースに着想したもの。
【作品5】「こんにちは赤ちゃん」『学校怪談』10巻(秋田書店)所収
【内容】日野出先生の長女、トモちゃんが病院で間違って渡された弟を取り返しにきたのは、「古のもの」のママだった……デザインの源泉は、作者があとがきで明言している。
◎田中雅人
【作品】「ザ・キャンプ」『キラーゴースト』(新書館)所収
【内容】キャンプ場に落下した隕石の核に潜んでいた存在が生徒達を虐殺してゆく。オカルト狂いの引率教員はその異形を「悪魔エスチュ」あるいは「偉大なるクトゥール」と呼んで崇拝する。
◎谷弘兒
【作品】「怪人・蝿男/妖夢の愛液」「摩天樓の影」『薔薇と拳銃』(青林堂)所収。
【内容】「摩天樓の影」は『別冊幻想文学 クトゥルー倶楽部』(幻想文学出版局)に掲載されたもの。
◎西川魯介
【作品】『昇天コマンド』(ワニマガジン社)
【内容】サバイバルゲームとHに、ダゴンなどが絡めたギャグ漫画。
◎穂高亜由夢
【作品】『邪炎の妖神』(角川書店あすかコミックス)
【内容】HPL『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』に基づく映画『呪いの古城』(舞台がアーカム村になっています)をさらに翻案した(笑)作品。映画ではカーウェン=ウォードをV・プライスが演じてしましたが、この作品では長髪の美形。ちょっとヤオイの雰囲気も(笑)。
◎魔夜峰央
【作品】『アスタロト外伝』(秋田書店)に「古代妖魔ナイアルラトテップの復活」「死霊秘法」「アッシュールバニパルの写本」「邪神降臨
」「暗きもの」といったエピソードを収録。
◎水木しげる
【作品1】「地底の足音」。初出は63年の曙出版版らしいが、リスト作成者が持っているのは文華書房版(奥付なし)と『水木しげる貸本漫画傑作選8墓の町/地底の足音』(朝日ソノラマ)。
【内容】HPL「ダンウィッチの怪」の翻案。日本に於けるクトゥルー神話紹介として最初期の作品でもある。HPLが舞台としてニューイングランド僻地の陰鬱・怪奇な雰囲気を鳥取奥地に見事に再現している。
【作品2】『悪魔くん 世紀末大戦』(光文社コミックス)。
【内容】海底に棲む魚人や「邪神クルールー」の他、妖女「灰怒羅」が登場。シナリオ協力として朝松健、竹内博氏の名があるが、クルールーは竹内氏の発案になるという。
◎MEIMU
【作品1】『ラプラスの魔』(原案・安田均、角川コンプコミックス)
【内容】PCゲームのコミカライズ。運命(ラプラス)を支配すべく旧支配者を召喚せんとする魔学者ウェーザートップをヒロインらが倒す。
【作品2】『デスシャドウ 黒の黙示録』全2巻(ぶんか社)
【内容】邪神の力を召喚も封印もできる真壁一族。「封印」サイドの美少女・菜奈は、彼女を守護する7つの「影」(シャドウ)の力を借りて、双子の姉・ルナを「歌って踊れる教祖」とし、日本海溝に眠る邪神を召喚せんとするグルウー教団と対決する。
【作品3】『DEATH MASK』全4巻(角川書店コンプコミックス)
【内容】女子高生セリア・シーガルの兄ロイドは、「古の物」の力を得ることができるという『死者の黙示録』の邪悪な研究に没頭、ついにそれを半ば成功させる。セリアは、姉クレミュが遺した特殊能力を発現させる<デスマスク>を使い、未来において「古の物」だけでなく「光の物」の力をも凌駕し、地球を滅ぼすと予言されたロイド=グランドマスクに戦いを挑む。
【作品4】『玩具修理者』(原作・小林泰三、角川書店コミックス・エース・エクストラ)
【内容】ストーリーは原作を一部改変しています。
◎諸星大二郎
【作品1】『妖怪ハンター』(集英社ジャンプスーパーコミックス)
【内容】「黒い探究者」「死人帰り」で言及される、人類などの正統生命系統樹とは異なった進化を遂げ、常に現世への侵入を狙っているとされる水蛭子(ひるこ)など疑似生命系統樹は、なまじ邪神名を小道具的に使った作品より余程濃厚にクトゥルー神話のテイストを有していると言える。
【作品2】『栞と紙魚子の生首事件』『栞と紙魚子と青い馬』『栞と紙魚子殺戮詩集』(朝日ソノラマ)
【内容】テケリ・リと叫んで走り回る「クトルーちゃん」のほか、「ヨグの逆襲」などのエピソードを収録。怪奇とコミカルな雰囲気が同居した作品。
◎矢野健太郎
【作品】
「ラミア」「ケイオスシーカー」『ラミア 邪神伝説シリーズ1』(学研ノーラコミックス)
「ダーク・マーメイド」「渚クライシス」「シンプル・ケース」「ポイント・オブ・カース」『ダーク・マーメイド 邪神伝説シリーズ2』(同)
「ラスト・クリエイター(「旧き神の帰還」改題)」「邪神名鑑」『ラスト・クリエイター 邪神伝説シリーズ3』(同)
「コンフュージョン(「尖塔の魔女」改題)」「ネフェルティティ」「サマー・ウィンド」「CALL
of CTHULHU クトゥルフの呼び出し」『コンフュージョン 邪神伝説シリーズ4』(同)
『リ・バース 邪神伝説シリーズ5』(同)
【内容】
クトゥルー神話テーマの連作。ただし、邪神に対抗する人間の機関ケイオス・シーカー=CSや邪神同士の対立といったHPL死後に付与された設定に基づいている。漫画の神話作品としては日本で最も発表点数が多い作家でしょう。
アザトースへの霊体旅行からの復帰に失敗した古代ゾシークの大魔道士ラミアは別次元地球の転生体である現代の少年、立川順の体に間借りする。だが、再度の次元旅行でヨグ=ソトーホートと接触してしまった彼女は、下僕たる火神クトゥグアを地球に呼び込んでしまい……(「ラミア」)。
邪神の眷属と信者を狩り出すCS工作員(後の作品ではケインと判明)は、ハストゥールに仕える風の里の生き残り、星間渚の体を使った召喚の企てを阻止し、彼女を救う(「ケイオスシーカー」)。以後、風の神の精を受けて超常能力を得ながら、CSの一員ともなった彼女を巡って最終巻までドラマが展開。
最も異色なのは、『黒の碑』があるシュトレゴイカヴァールとチェルノブイリを結ぶ謎を巡り、CS工作員・美亜が体験する現実と幻覚、現世と過去世の入れ子構造の恐怖を描いた「コンフュージョン」。作者も記しているように、『危険な話』と『後から来る者へ』にインスパイアされています。
◎山田章博
【作品】「怪奇骨董音楽箱」『CRASH 空想科学大冒険活劇競作大全集8』(東京三世社)初出。『紅色魔術探偵団』(日本エディターズ・ペーパーコミックス)所収。
【内容】ドクター・フーが骨董屋の店先からくすねて来たレコード。それはプレイヤーにかけると、悪魔にすら悪夢を見させるこの世ならぬ音楽を奏でるもので、実際に近隣には何人かの発狂者が出ていた。レコードを焼き捨てると、それは炎の中で不気味にのたくり、叫び、そして最後に、銘が剥げてかすれていた曲名とも奏手とも判別しがたい名前が浮かぶ--「エーリッヒ・ツァン」。
◎渡辺心
【作品】「死都」『デストピア聖典 SF・ホラー映画の黙示録』(フィルムアート社)所収。
【内容】人類滅亡映画をレビューした本の巻頭と巻末を飾る。ヘドラやゾンビ、マタンゴ怪人、放射能アリが跋扈し滅びゆく東京で、破壊の欲望に取り憑かれクトゥルーへと変容した男の頭上に世界各国から核ミサイルが撃ち込まれる。
◎『妖神降臨 真ク・リトル・リトル神話コミック』(アスキー出版局)
【収録作品】
板橋しゅうほう画「地の底深く」(原作R・B・ジョンソン)
いつきたかし画「妖蛆の秘密」(原作:R・ブロック)
来雅環画「暗黒の接吻」(原作R・ブロック&H・カットナー)
ゴブリン松本画「海底の神殿」(原作HPL)
桜水樹画「メデューサの呪い」(原作Z・ビショップ)
藤川守画「ハイドラ」(原作H・カットナー)
◎『ラヴクラフトの幻想怪奇館』(大陸書房ホラーハウスコミックス)
【収録作品】
岡本蘭子画「魔犬」「死体安置所にて」「宇宙からの色」
松本千秋画「レッドフックの恐怖」「エーリッヒ・ツァンの音楽」「アウトサイダー」