今日も農耕的に仕事をした。
●本日は「春分の日」である。古えの暦では、一年はここから始まる。 あけましておめでとうございます。
こちらも新年らしく心を入れ替え、そろそろ胆石のダメージから立ち直り、仕事に全精力を傾注しなければならない。今回、「真田」シリーズの完結編ということもあり、ちょっとリキが入りすぎているようだ。肩の力を抜いて、色んなことに向かおう。
●それは兎も角、この何日か、ウィルス・メールが届き続けている。どうやらウチとアクセスしている誰かのパソコンが、ウィルスに冒されているらしい。ウチは入る片端からノートンで検疫と永久削除を繰り返して遊んでるからいいが、もしお気づきでなかったら、どうかウィルス・スキャンをして頂きたい。以上は業務報告でした。
●実は竹岡氏よりは、以前にも「ラヴクラフトと天文学」について、とても興味津々たるメールを頂いている。わたし一人で独占していても、世のラヴクラフト研究に役立たないので、ここにご紹介しておきたい。ただし、プライベートな箇所は全てカットしているし、若干、わたしが編集していることだけは、お断りしておきたい。
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「HPLの幻視(み)た“星“」 竹岡 啓
今から5年前、エドワード=リプセット氏や私が所属しているクトゥルーMLで「『魔女屋敷で見た夢』で主人公ギルマンを引き寄せる『海蛇座とアルゴ座の間にある一点』とは何か?」という疑問が出ました。当時クトゥルーMLはその話題で盛り上がりましたが、肝心の問題の答は得られませんでした。 ところが、最近、私はネット上で「かま猫」なる人物と知り合いました。(とりあえず本名は伏せさせていただきます。なお「かま猫」というハンドル名は宮沢賢治の「猫の事務所」に因んだものだそうです)かま猫氏は天文学のプロで、かつラヴクラフトの愛好家でした。私が例の問題について尋ねてみたところ、その記述が実在の天体を指すものだとすれば「らしんばん座T」(学名T Pyx)だろうという回答が即座に返ってきました。 かま猫氏によると、T Pyxは「反復新星」と呼ばれる天体のひとつだそうです。反復新星は繰り返し爆発して増光する珍しい新星で、T Pyxは1902年5月に発見されました。1920年に再び増光し、新星の仲間であることがそのとき確認されたということです。 米国の神話ファンもこの問題で頭を悩ませていることを私は知っておりましたので、米国の著名な神話研究家であるダニエル=ハームズ氏にメールで知らせてみたところ、答が見つかるのは世界初だとのことでした。 その後、かま猫氏は京都大学の加藤太一博士などの協力を得て調査を行いましたが、今日においてもT Pyxは謎めいた天体であり、その神秘的な印象からラヴクラフトが創作のヒントを得たことは大いに考えられるそうです。
「眠りの壁を越えて」にはペルセウス座の新星すなわち「ペルセウス座GK」への言及がありますが、さらに「ヒュプノス」ではかんむり座からの光が主人公の友人を引き寄せます。人間が天体に誘引されるというのが「ヒュプノス」と「魔女屋敷で見た夢」の共通点であることは前述のハームズ氏によって指摘されていますが、ギリシア神話の眠りの神とかんむり座には何の関係もなく、ラヴクラフトが「ヒュプノス」でかんむり座を持ち出した理由は不明でした。 かま猫氏によると、かんむり座には「かんむり座R」(R CrB)という非常に有名な変光星があるそうです。ラヴクラフトは熱心な天文愛好家で、地元紙に天文学のコラムを連載するほどでしたが、「ヒュプノス」「眠りの壁を越えて」「魔女屋敷で見た夢」などの作品には彼の変光星への興味が反映されているのではないかとかま猫氏は推測しています。 かま猫氏の仮説は確証こそまだ得られておりませんが、たいへん説得力に富んでいるように思われます。(日本のクトゥルー神話研究がここまで発展してきたことは朝松先生の御仕事の成果であろうと思い、まことに不躾ながらメールをさし上げさせていただきました) 実在の変光星がラヴクラフトの作中で巧妙に利用されていることは彼の星空への愛情の表れであるだけでなく、HPLがきわめて緻密に物語を構築していたことの証左でもあるだろうというかま猫氏の言葉に私は感銘を受けました。チャンスがあったら日本人の「神話評論集」のようなものも企画していきたい、と朝松先生は以前おっしゃっておられましたが、その企画が実現するのであれば、「ラヴクラフトと天文学」という重要なテーマの担当者として私はかま猫氏を推薦させていただきます。
────────────────────── ●日本人研究家による「クトゥルー神話研究論文集」は必ず実現したい企画の一つです。まだまだ乗り越えなければならないハードルは多く、幾多の困難がありそうですが、日本人作家のオリジナル・クトゥルー神話小説集が三冊も実現したのだから、きっと、死ぬまでには実現させたい、と思っています。(これは、クトゥルー神話と34年関わってきたわたしの執念かもしれませんね)そして、それが実現した時には、竹岡氏やかま猫氏、原田実氏や久留氏、笹川氏といった人たちの研究論文・リスト・批評・ビブリオグラフィーを網羅して、「S.T.ヨシ氏に捧ぐ」とフロント・ページに入れたいと思います。(それまでは、せいぜい、痙攣発作や胆石や左手足の麻痺と戦い続けましょう)
●「眠りの壁を超えて」は、わたしも大好きな作品である。この、思念が光速を超え、宇宙を駆け巡るイメージと、邪悪の星の禍々しさ。その危険を訴えようとした超知性が、野卑な人間としか同調できず、その男は単に残虐な殺人を犯しただけだった、という絶望。これらは、のちの「銀の鍵の門を超えて」「超時間の影」などにも通底するモチーフである。そして、共通しているのはラヴクラフトの絶望。「宇宙的な絶望」だ、と感じてしまうのは、わたしだけであろうか。
●妻と長男は吉祥寺に墓参り。長女は早朝よりバイト。二女は午後からダンスの練習である。ウチに一人でいて、ぼんやりとしていた。本も読まず、ビデオも見ず、ネットを少し回ってみても土曜ゆえ何もないようだ。 たまには、こんなのんびりした日があってもいいと思う。
●外はそぼ降る雨。寒い。低気圧のせいか、憂鬱である。
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2004年3月20日(土)
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